日本カムリ学会へようこそ 英国を構成する4つの国の一つ、「ウェールズ」。「ウェールズ」の言葉、文学、歴史、文化などを研究し、啓蒙活動を行うことが本学会の目的です。本学会では「ウェールズ」という国を「カムリ」と呼んでいます。「ウェールズ」はこの国の英語の呼び方です。しかし「ウェールズ」には英語とは全く異なる独自の言葉があります。その言葉でこの国は「カムリ」(Cymru)と呼んでいます。本学会では、英語だけでなくこの国の言葉(カムリ語)を用いてこの国を見つめ、この国について理解しようと努めています。

第25回例会開催のお知らせ

日本カムリ学会 会員各位

  

以下の要領で、日本カムリ学会の第25回例会を開催致します。お誘い合わせの上ご参加下さい。 

開催日時:2017年7月22日(土)13:00~17:00

   場所:大東文化大学 大東文化会館 ホール

     (最寄り駅:東武東上線東武練馬駅下車約2分)

 

参加ご希望の方は、お問い合わせからメッセージをお送り下さい。両日以内に学会幹事よりお返事差し上げます。

 

プログラム

受付開始 13:00

個別報告1 13:00~14:00

「中世ラテン語散文物語『カンブリア王メリアドクスの物語』を読む」

報告者 渡邉浩司氏

司会  小路邦子氏

個別報告2 14:00~15:00

         「ガイ・リッチー監督の『キング・アーサー』」

                              報告者 小路邦子氏

                              司会  渡邉浩司氏

休憩    15:00~15:15

  講演    15:15~17:45

「カムリの高等学校におけるカムリ語教育」

                                      講演者 アンナ・ホイットフィールド氏

                   ※講演は英語で行われます。

 

  懇親会   18:30~

                   (池袋の英国風パブ「ダブリナーズ」を予定しております)

 

 

講演

「カムリの高等学校におけるカムリ語教育」

          講演者 アンナ・ホィットフィールド氏

 

 カムリ北東部のディンビッヒ州クルイド渓谷に住むアンナ・ホイットフィールドさんは、これまで地元のカムリ語学校(カムリ語で授業が行われる高等学校)に通い、この夏に卒業なさいます。この度アンナさんに、高校でこれまで受けてきた教育についてお話しして頂きます。

お話しの内容は(1)自己紹介、(2)高校(アスゴル・グラン・クルイド(Ysgol Glan Clwyd)の紹介、(3)教育内容(時間割、教科書、教授言語、課外活動、(4)学校内や町の人々にカムリ語の見方、などです。

 

個別報告1

中世ラテン語散文物語『カンブリア王メリアドクスの物語』を読む

報告者 渡邉浩司氏

 

 ヨーロッパで12世紀に中世フランス語韻文により誕生し、15世紀にトマス・マロリーが集大成した「アーサー王文学」史上、一般読者だけでなく専門家にも見過ごされてきたのが、中世ラテン語で著されたアーサー王物語群である。この作品群の代表作『アーサー王の甥ガウェインの成長期』が邦訳で読めるようになったのは昨年のことである(瀬谷幸男訳、論創社、2016年)。ところで大英図書館が所蔵する『ガウェインの成長期』を今に伝える唯一の写本には、ラテン語による別のアーサー王物語『カンブリア王メリアドクスの物語』(Historia Meriadoci, regis Kambrie)も収録されている。この物語の主人公メリアドクス(Meriadocus)は、様々な試練を経てウェールズのカンブリア国王になる人物である。本報告では、これまで日本では全く未紹介だったこの作品の筋書きを紹介した後、神話学的な立場から作品の分析を試みたい。

 

個別報告2

 ガイ・リッチー監督の『キング・アーサー』

報告者 小路邦子氏

 

 日本では本年6月17日(土)公開予定のガイ・リッチー監督(『シャーロック・ホームズ』)の映画『キング・アーサー』King Arthur: Legend of the Sword (公式サイトhttp://wwws.warnerbros.co.jp/king-arthur/)。全六部作になる予定の第一作である。

これまでも数々のアーサー物の映画が作られてきたが、本作は先行作品では扱われてこなかったヴォーティガン Vortigernが、悪役として前面に出ているようだ。「権力に取り付かれ、魔術を駆使して逆らう者を徹底的に排除する危険極まりないキャラクター」(映画.com)だという。演じるジュード・ロウは「外から見たら見栄えはよいんだが、中身は腐敗しているんだ。そんな人物を演じるのはエキサイティングだと感じた。なよなよした、ひげをいじっているような悪役は演じたくなかったからね。ウィットとユーモアに富んだ作品で、とても邪悪なキャラクターを演じるということに興奮したんだよ」と語っている(映画.com。予告編を見る限り、リッチー監督らしいキレのいい映像とアクションが満載のようだ。

さて、このヴォーティガンであるが、12世紀前半の年代記『ブリタニア列王史』(ラテン語)の中で初めてアーサー王の一代記を記したジェフリー・オヴ・モンマスによると、彼はアーサーの祖父が亡くなった後、まだ幼かったその息子たちから王位を簒奪し、スコット人・ピクト人の侵攻に対処するためにブリテン島に大陸からサクソン人を招き入れたとされる人物である。その後サクソン人に現在のイングランドの東部を奪われ、ウェールズへと逃げてきた。ここで強固な砦を建てようとするのだが、昼間にいくら石を積んでも夜の間に崩れてしまい、一向に埒が明かない。そこで、賢者たちに諮ると、父なし子を連れてきてその血をモルタルと混ぜるとよい、と言う。早速国中に使者をつかわしてその子を探させる。そして見つかったのが夢魔の子である幼子マーリンであった。かくして連れてこられたマーリンは、塔が崩れる原因を知りたいなら、その塔の下を掘ってみよと言う。言われた通りに掘ってみると、その下には水たまりがあった。水を抜いた後には中が虚ろな二つの石があり、その中には眠っている二頭の赤白のドラゴンがいた。見ているうちに二頭は激しく戦い始める。そして、白い方が優勢になる。この戦いのために、塔は毎夜崩れ落ちるのであった。やがて赤が押し返すが、戦いの意味するところを聞かれたマーリンはトランス状態になって、こう予言する。いずれはサクソン人を表す白いドラゴンに、ブリトン人を表す赤いゴラゴンはその巨大なねぐらを奪われるだろう、と。こうして、ヴォーティガンはマーリンを重用するようになる。しかし、またマーリンは、ヴォーティガンがサクソン人たちのために悲惨な死を遂げることも予言した。

以上がジェフリー語るところのウェールズのドラゴンの話の概略であるが、映画ではどうやらヴォーティガン自身が魔法を駆使し、アーサーの両親を殺したのだが、彼はまたアーサーの叔父でもあるという設定のようだ。そして、アーサー自身はロンドンのスラムで育つという。そのアーサーが、あの有名な石から抜いたエクスカリバーを手に、ヴォーティガンと戦うという展開であるらしい。

しかし、ヴォーティガン自身が強大な魔法を駆使するとなると、偉大なる魔法使いマーリンの出番はどこにあるのだろうか。一応配役には名前があるのだが、このドラゴンの話も果たしてあるのかどうか。

 

全六作ということなので、まだ今作は話のとっかかりにすぎないかもしれないが、中世以来の物語が21世紀にどのように生まれ変わって姿を見せるのか、楽しみである。米国では5月12日(金)公開なので、これから色々と情報が入ってくるかもしれない。

<予習のために>

・アンヌ・ベルトゥロ『アーサー王伝説』(知の再発見双書71)松村剛監修、創元社、1997. (概説書、図版多数)

・ジェフリー・オヴ・モンマス『——アーサー王ロマンス原拠の書—— ブリタニア列王史』瀬谷幸男訳、南雲堂フェニックス、2007.(入手困難)

--------------『中世ラテン叙事詩 マーリンの生涯』瀬谷幸男訳、南雲堂フェニックス、2009. (やや入手難)

・ロベール・ド・ボロン『西洋中世奇譚集成 魔術師マーリン』横山安由美訳、講談社学術文庫、2015.

・トマス・マロリー作、ウィリアム・ キャクストン編『アーサー王の死』(中世文学集I)厨川文夫・圭子編訳、ちくま文庫、1986.(抄訳)

・ロジャー・ランスリーン・グリーン『アーサー王物語』 (岩波少年文庫 3057) 厨川文夫訳、岩波書店、1957.(児童書、入門書としては最適だが入手困難)

ジェイムズ・ノウルズ『アーサー王物語』 金原瑞人訳、偕成社文庫、2000.(児童書)

・トマス・ブルフィンチ『新訳 アーサー王物語』大久保博訳、角川文庫、平成5年.

・井村君江『アーサー王ロマンス』ちくま文庫、1992.

Geoffrey of Monmouth. The History of the Kings of Britain. trans. Lewis Thorpe. (Penguin Classics.) Harmondsworth: Penguin Books. 1966. rept. 1968.

Loger Lancelyn Green. King Arhur and his Knights of the Round Table (Puffin Classics.) Harmondsworth: Penguin Books. 1953. rept. 1955; 2008. (岩波少年文庫の原書)